銀盤にて逢いましょう 続々

     *これまでの一連の作品とは別枠のお話です。
      転生ものです、CPも微妙ですが異なります。
      勿論のこと、完全フィクションですので
      実在する人物・団体などなどには一切関係ありません。
 




銀盤に咲き競う若き華たちによる氷上の熱き戦い、
フィギュアスケートは只今シーズン真っ盛り。
世界中の有名会場を回るGPツアーとやらも始まっており、
世界大会に出場するには幾つ入賞して何ポイント稼がねばならぬとか、
その際に 日本選手としての出場可能枠は何人までなので、
候補選手たちの中、誰と誰をどの大会に割り振るかなどなど
協会のお偉方がうんうんと唸りつつ決めてくださるのだそうで。
そういったことの成果が、先々の…例えば五輪への軌跡にもつながる、
なので ゆめゆめ疎かにしちゃあいけないのだが。
今シーズンの日本フィギュア界の台風の目、それは注目されておいでのニューカマー、
男子選手では横浜在住の芥川くん、女子選手では東北代表の中島さんが、
その素晴らしき表現力やらジャンプの成功率やら、
ついでにそれぞれの美々しい見目をもってして、華やかな話題を振りまいているものの。
今時は なべてそんなものだということか、
意を合わせているかの如く、どちらも揃ってあんまりアピールの気配もないままで居る模様。
知名度もぐんぐんと上がっての結構な注目のされようではあるけれど、
芸能人じゃああるまいし、大会前後のインタビューくらいしか意気込み発言の機会はなく。
両陣営とも、素人のはずだが妙に威容たっぷりの存在感あるスタッフが取り巻いての防御も整うているせいか。
二人ともまだ学生なので ぎゅうぎゅうぎゅうと密着しての取材というのもはばかられると、
誰からともなく…連盟だか協会からだかの進言があったという説もあっての “申し合わせ”から。
マスコミがやたらと寄ってたかって
無遠慮にもプライベートを聞きほじるという困った事態にはなってもないが。
それでも全国紙の紙面を飾るほどの知名度ともなれば、
地元でも “ほらあの子あの子”と囁かれる程度には顔が差すようになった。
かといって遠巻きにされているという訳でもなく、
いつもの待ち合わせ、丁字路で立ってた少女がこちらに気づいて小走りにやってくる。

 「…敦。」
 「おはよう、鏡花ちゃん。」

シーズン突入とはいえ こちらが本分なのでと、
平日は出来るだけ籍を置く地元の学校に通うようにしている、スズラン娘こと中島敦嬢。
試合の際の欠席やら出席日数が絡む単位の取得に融通を利かせやすい、私立の高校に通っており。
スケートこそ始めたばかりだが、
それまでにかかわっていた他のどのスポーツへ進んでも支障がないよう取った処遇が、
結果として功を奏しているという順番の現状で。
ご当地では、ジュニアながら テニスやスキーでも名を馳せていただけに、
そっかぁ、そっち行ったかぁと、惜しむ声もありながら、
さりとて周囲が無理強いするもんでなし、
割と和やかな目で見守られている天才少女だったりし。(スポーツ限定)
何より本人の性格というか気性がややほわほわしている天然娘なせいでか、
さほど陰湿ないじられようはしていない。
幼い頃は、ちょっぴり周りから浮いていて異質だからと、
髪や瞳の色が気持ち悪い、変な奴だと囃し立てられたり
髪を掴まれるようないじめもなくはなかったものの。
ハーフやクォータなら出て当たり前な差異なのだし、
所謂 思春期に入ると、そんな子供じみたことをいつまでもやってる方が軽蔑される。
それこそ、好きな子だから虐めるんだろーと逆に囃し立てられるのがオチで、
事実そうだとしたらば立場は悪くなる一方だろうし。
彼女の場合は、その上 周囲にブレインぽい年上の顔ぶれが集まっていたがため、
子供じみたちょっかい掛けは小学校の低学年あたりであっさり引いてしまっており、
むしろ、格好いいお兄さんやお姉さんが知り合いであり、
気さくな人ばかり、たまには一緒に遊んでもくれることもあって、純粋に羨ましがられていたくらい。
登校途中で顔を合わせるのが日課となっているのこの少女も、
そんなブレインさんの妹御であり、本人も薙刀の使い手。
年はやや離れているものの同じ学園の中等部に通っているので、
最寄りの駅前から共通の正門までを同行するようにしており、
敦がその日本人離れした見栄えから虐められたことがある話を聞いて
いたく腹を立てた挙句の同伴登校と相成っている。

 『まだまだ未練がましく虐めようとか付きまとおうとする輩が出たら追い払ってやる。』

冴えた眼差しも凛々しい小さな少女剣士は、姉から言われるまでもなく、
このお日様みたいなスズラン姫を 紹介された時からすでに“守りたい”と決めていたとかで。

 『ボクってそんなに危なっかしいのかな。』
 『先日も、素行のおかしそうな男子に
  道案内してくれないかと声かけられて素直に協力しかかってた。』
 『そうであったのぅ。
  あんな腐れたチンピラ、しかも誘導先に仲間もにやにや立っておったし。』

敦は善人しかいない環境で育ったから余計に危なっかしい。
困っているようだったからお手伝いしようとしただけなのになんて頬を膨らませたところまで、
丁度居合わせた鏡花の姉の紅葉経由で太宰にも伝わっており。

 『いいかい? 敦ちゃん。
  かつてのキミと違って、虎の異能で反撃したり逃げ出すことも出来ないんだから。』

何より、キミ自身のその誰からも好かれよう風貌をちっとは自覚してくれないと困ると、
自分の方こそ どこの舞台俳優さんですかと問いたくなるよな甘く整ったお顔を憂いに沈めつつ、
スタッフを取りまとめているうら若きチーフさんが 年下のお嬢さんへお説教していたのも記憶に新しい。
幸いにして、直接接する範囲のクラスメートなりスケート仲間なりは
彼女の気立てもようよう知っており、
気の合うお友達であったり、いい意味での競争相手でしかなく。
今日も今日とてごくごく当たり前のご挨拶を交わし合う朝の爽やかな通学路…であったはずなのだが。

 「中島さんでしょう? スケートやってる。」

そんな声が不意に掛けられ、はい?と不意打ちへの何だ何だという反応をして振り返ったお嬢さんへ、
ここいらでは見かけないおリボン付きの制服姿の女生徒らが数人、
丁度、公園の入り口前の車止めにそれぞれ凭れるようにして視線を向けており。

 「はい、中島ですが…?」

あちこちへ遠征にも出るようになっている敦だが、それでも見覚えがない顔ぶれ。
見知らぬ人からのお声掛けも増えたが、
こうまで堂に入ってる態度からして以前にも話したことある人かなぁと、まずはそうと解釈し。
テニスやってた時の人かな、
でもみっちゃんやあきちゃんの知り合いって風じゃないしな…などと
何とか頑張って思い出そうとしておれば、

 「何だ、ハーフらしいって聞いてたけど目鼻立ちはフツーじゃん。」
 「そうだよね。特に美人って風でもないし。」

お仲間だろう一緒に居合わせた顔ぶれと目と目を見合わせ、鼻で笑ってのこの言いようへ、
たまたま近場に居合わせた生徒たちは かちんと来るよな嫌な感触を得たし、
鏡花に至っては肩に負っていた模擬刀(カバー入り)に手を掛けかかったほど。
一部虐めていた連中が居たのも今は昔で、
今は学園の誉れ、クラスメートたちのマドンナ的存在でもある敦嬢だというに。
何だその言い草は。自分たちこそ鏡を見てんのか。
アプリで補正されてる詐欺メイクな顔しか信じてないんと違うのかと、
むっか~~っと来たものの、

 「何か御用ですか?」

当の本人はキョトンとしたまま。
そんなとほんとしたところに、これは手もなくひねれるとでも思ったのだろう、

 「あんたみたいな田舎もんが、芥川くんとセットで扱われているのがね。」
 「そうそう。泥臭いあんたなんかが洗練されてる龍くんと一緒くたにされてるなんて可哀想。」
 「でもね、TV越しで見ただけの人を勝手に悪く言うのは卑怯かなって思って見に来たんだけどぉ。」

クルリンと毛先が巻かれた亜麻色の髪を指先へ巻きつけながら、
あるいはグロスで てらてらしている口許を尖らせながら、
歌うようにそんな悪態を紡ぎだす彼女らで。
後で判ったことだが、そういや今週末の地区大会は地元近くのリンクで催されるとあって、
氷上の貴公子こと 芥川くんの熱烈な追っ掛けファンの彼女ら、
先乗りで現地に入り、そのついでにと 世代が近いからか仲がいいなんて噂のある
北国のスズラン娘を揶揄挑発してやろうと構えていたらしく。
恐らくはまだ学校も休みじゃなかろうに 此処までするほど のぼせ切っておればこそで、
アテクシたちのアイドルに相応しい女か否か、わざわざ見分しに来てあげたのよというところかと。
その辺りの背景、このやり取りで ざっと判った周囲が あっという間に敵愾心を膨らます。
何だ此奴ら、思い違いも甚だしい。
プリンス&プリンセスだとか、黒の貴公子と純白の姫とか、
エキシビジョンで一緒になることが多いのへ マスコミが勝手に煽っているだけ、
大体あんな蚊トンボに我らが敦ちゃんは勿体ない…とまで思った人がいたかどうかはともかくも。(笑)
何て失敬な物言いをする連中だという憤懣ぶりは十分伝わり、そんな空気へ、

 「やぁねぇ、これだから田舎者はさ。」
 「身内が悪く言われたら一気にスクラム組む根性の狭さ、ウケるぅ♪」
 「世の中にはいろんな意見や好みがあるって受け入れられないのね。」

どんどんと学生らが立ち止まってゆくというに、
怖気ることなく、口も止まらぬ蓮っ葉な少女らなのへ、

 「…っ。」

とうとう堪忍袋の緒が切れたか肩から模擬刀を入れた袋を降ろしかかった鏡花だったが、
そんな彼女の背中をポンポンっと軽く叩くと、当事者である敦ちゃん、
にこぉっと笑ったそのまま、

 「私も確かに泥臭い田舎娘だけれど。」

彼女らの方へと開いて見せた手のひらには、
ストラップや何やも付けないスマホが1基。
チョチョチョイっと操作すると録音されてあったらしい音声が流れだす。

 【 いいか? 何度も同じことを言わせるな。】

最近のスマホはなかなかに性能がいい。
あまり籠っても無いまま録音されたらしい声が再生され、
最初の一声で、押しかけ少女らがハッとしたのも無理はない。
やや強めの語調だが、淡々としていて張りもある、若い男性の声であり。

 【 いつも言っておるだろうが。いい加減に覚えよ。
  エッジカバーをそこいらへ放り出したままにするな。
  それで毎度毎度失くしたと大騒ぎになっておろうが。
  あと、間食を食い散らかすな。封を切ったままのスナック菓子の袋を放置して取っ散らかすな。
  バッグを床に直置きするのも、中也さんから注意されただろうが。
  あとで膝に抱える時なぞ汚れるというに。
  靴のかかとを踏みつぶすのも見た目が悪いし転ぶ元だぞ?
  それでなくとも足元不如意なくせに、そういうところを正さぬか。
  いくら令嬢でも最低限の常識くらい守れ。】

寡黙というのも評判の孤高の貴公子、
希少な声だからこそインタビューのそれなぞを繰り返し聞いてでもいるものか。
最初は “あ、この声ってvv”と表情が浮かれかかったお嬢さんたちだったが、
つけつけと続く言いようの、何と言うか…細かいというか神経質そうなチクチクへ
一緒に聞いていた周囲の面々も呆気にとられるわ、
難癖付けに来た少女らもぽかんとしてしまうわ。
そんな皆様へ、どこぞのご隠居の切り札みたいにスマホをかざしたまま、

 「芥川くんにどんな夢を持ってるかは自由だけれど。
  ボクにはいつだってこんな奴なんだよ?
  小姑みたいな会話しかしてないのに、
  特別な仲みたいに思われるのはボクの側からだって心外だ。」

日頃、あまり誰かの悪口なんて言わないスズラン娘だが、
意中でもない相手との仲を勝手に詮索されるなんて
余程のこと 迷惑極まりなかったものか、
むむうと口許ひん曲げて、そうと言い切って見せたのだった。





     ◇◇


今期は年の初めに五輪があったこともあり、次の大きな大会は4年後。
世界を巡るGPもあるにはあるが、
まだ高校生、世代的に見てもさほど躍起にならずともと言われている虎の姫としては、
このまま続けるというのならじっくり表現力を磨こうねというのが直近の課題。

 「ジャンプの前後の余韻というのかな。
  着地してからなめらかに次へ移行するつなぎがね、
  さぁっと腕を開いて脚を延ばして、もう一拍ほしいかな。」

アクセルやフリッツをいくら決められても、前後がちぐはぐではね、と。
技術指導の谷崎さんから課題を噛み砕いて説明されたものの、
気が急くものか、ついついジャンプやスピンの難度に振り回されること多かりしで。

 「背も高いんだし、腕や脚もすんなり長いんだ。
  ポージングで魅せるコツみたいなもの掴みゃあ、
  ずっとレベルアップするってもんだろうに。」

いい素材なんだからもっと伸び伸びすべりゃあいいのによと、
特に声を潜めるでない口調で話した人に気がついて、
練習だからとベロア風のフリースジャージとボアのレッグウォーマに
モヘアのヘアバンドというあっさりした防寒仕様の恰好でいた虎娘が“わvv”とお顔をほころばせる。

 「中也さんvv」
 「よお、この時期に基礎とは感心だな。」

勝手知ったる何とやら、
コーチ役の谷崎のお兄さんが小さく目礼を寄越してから離れてゆくのへ
敦嬢もぺこりとお辞儀をし。
そのまま飼い主のご帰還へ飛びつく仔犬のようなノリで一目散に氷上を駆けてゆき、
裾や衿、前合わせ、フードの縁まで もこもことファーに縁どられたハーフコートに
パルキーセーターとスリムなレギンスというシャープ&フェミニンないでたちの女傑へ、
わーいと抱き着く無邪気さよ。
相変わらずの黒基調。
そういや、前の生ではあまり接点はなかったけれど、
何よりあの頃はこの人も男性だったけどそれでも
怖い組織の幹部だったのに、
それを十分匂わせる気魄も持ち合わせていた重厚な人だったのに、
温かそうな人という印象が拭えずで。

 「いい匂いする~vv」
 「そーか?」

ンン~~~っとふかふかのファーに頬擦りする。
痩躯に見えてなかなかの胸元で、
それに甘い香りは大人の女性という雰囲気に相応しくって

 「中也さんまで来てたんですね。」
 「そりゃあ まあな。」

ポイント稼がにゃならねぇし、
プログラムをちょいといじったんで、チェック入れたいしと、
ひょいと細い顎をしゃくれば、その先の別な入り口からリンク上へと歩み出す人影が1つ。
フード付きの至って地味なジャージに手套、
イアーマフの代わりか、敦のようなヘアバンドを撒いた、

 「芥川……ってもう来てたんだ。」

くどいようだが、まだ平日で学校もあろうにと小首を傾げる敦だったのへ、

 「大学生はもう冬休みだぞ。」
 「あ。そうなんだ、狡いなぁ。」

邪魔になっても何だと思うたか、自分もリンクから上がって見学に回る。
傍のベンチに置いていたポンチョタイプの外套を羽織り、
自然体で氷を確かめるよに、右から左、真っ直ぐ滑走する姿を見やる。

 『…………からな。』

ざっと氷をエッジが噛む音に、
ああ知ってる、判る、この力加減だとダブルフリッツに入る。
自然と自身のかかとに力が入る。
軸を微塵もぶれさせぬまま宙に舞う痩躯がくるくると旋回し、
危なげなく再び着氷し、その長い腕を開いてまるで白鳥の着水のように優美に舞う。
ああそうか、谷崎さんが言ってた一拍置くってこういうことかと、
お手本を見せてもらったような気がして。

 『やつがれ以外へ その命 軽々しく呉れてやるな。』

さほど遊びはないいでたちだが、それでも起きる鋭い滑走風にパンツやウェアの袖がはためく。
曾てと似た髪型の、そこだけ伸ばした横鬢の髪がすべらかな頬を叩いて躍る。
こんな優雅に舞う同じ奴が、あんな物騒な約束を強いたなんてねと。
常に何か張り詰めたような間柄だった“かつて”を思い出し、
切なげな息をついた敦の様子を肩越しに伺う中也もまた。
何を想うか仄かに苦笑し、細くなった肩を気づかれないように小さく竦めた。


今日のところは修正部分のチェックだけなのか、軽くリンク内を回ってお終いと、
指導役の中也が手を振り、そのまま控室のある方へ向かってしまう。
着替えの必要はなさそうだったが、そちらにちらり、背の高い人影が見えたので、
ああそっかと合点がいったタイミングへ、不意を衝くよに肩を抱かれた。

 「わ。」
 「よそ見か。」

リンク周縁を取り巻くフロアには他に誰もいなかったが、それでも、
今朝の騒ぎを思い出したか、敦はやや焦るとわたわたと腕を振り回す。

 「誰かに見られるよぉ。」
 「構うか。」

背後から肩口をぐるりと抱かれ、どう解釈されることかと焦って見せる敦だが、
こういう機会でもないと会えぬ身だからか、
孤高の貴公子なぞと呼ばれているにしては結構 執着の強い誰か様、
額をこちらの肩へ乗せ、大きめの犬が懐くよな様相でぐりぐりとマーキングしてくるから、

 「…変わったよなぁ。」
 「言ってろ。」

芥川には芥川の言い分があるらしい。
何とも表し難い奇縁で出会い、憎み、共闘し、認め合った相手。

 “……覚えていないのは自己封印のせいだろうか。”

一体どちらが先に逝ったのだろうか。
同時に散ったか、それとも…?
今となっては判っても詮無いことなのに、
念願の再会叶ってからは それがたまに気になってはむしゃくしゃする。
だというに、この能天気な小娘は、

 「そっちは構わなくともね。」

年頃の女子高生なんだから、なんて言って、
つんと澄ますところが、可愛いやら…やっぱり憎たらしいやら。

 「成程、未成年は大変だな。」

男女交際にも許可が要るのだものなと、
揶揄するように言えば、むうとますます膨れたものの、
開放するよに顔を上げると それで儘になったと言わんばかりに
こちらへと振り向いた来た白いお顔が共に流れて来た銀の髪に幕されて。
やや俯いたまま、今度は敦の方からこちらへと凭れてくる。

「…いいの?」
「? 何がだ?」
「だって。芥川の情けないところとか流出させてることになる。」

ああと、何を言っているのかに察しが行って、
そのままくつくつ笑って返す。
そんなつもりはなかったけれど、最終目的ではなかったけれど、
人探しの手段として顔を売るって手法を利用した手前、今や随分と顔が広くなった二人でもあり。
もしも ややこしい輩にやっかまれたりした折は、
そんな間柄じゃあないと、口うるさい舅みたいだと言ってやれと。
例の、口うるさい彼の声を録音させてもらったのであり。
今朝がた初めて使ったはいいが、
その折の周囲の反応には仕掛けた敦嬢自身もやりすぎじゃないかと引いたらしい。

「構わぬ。」
「……でも…。」
「滑稽な噂のある男は好かぬか?」
「…そんなはずないだろ。//////////」

もうもうもうと、懐にすっぽり収まったまま胸元へおでこをくっつけスリスリ甘えれば、
薄い背をまるまる頼もしい腕で掻い込んだまま、細腰をぐいと抱き寄せて、

「重畳。」

短く、だが、満足そうな深みのある声で、そうと応じた氷上の貴公子様であり。





 「こっちは大学生だが、いいのか敦の方はよ。」
 「誰も見ちゃあいないなら構わないだろうさ。」

お約束というより、そうそうすっかり手放しにも出来ないか、
双方の責任者、シーズン中は保護者でもある二人ほど、
外へ通じるロビー側、こそりと曲がり角の壁際に身をひそめて様子を窺っていたりする。

「芥川くんの指導、キミが手掛けてるんだって?」
「まぁな。ウチの陣営は全員武闘方面専門だから。」

曾ての記憶がよみがえり、そうか捜したい相手がいるんだなと
助力してやろうと構えた折、
プレゼンや人脈探しは他の面々でも間に合ったが、
肝心な技術を身に着ける段では、一番器用だった中也があれこれ勉強し、
素人同然だった芥川へ基礎から叩き込んだというから、
素地はあったとしたって大したもんだと、太宰でさえ舌を巻く所業。

 「相変わらず器用なもんだなぁ。」
 「それ言うなら手前こそ、
  相変わらずとんでもないところに山ほどコネ持ってやがるらしいじゃねぇか。」

切れ長の双眸を眇めて ちろりと斜に睨み上げるお顔の、何とも妖冶なことよ。
かつてもそりゃあ表情豊かで、誰からも慕われたそんな彼の注意を、
こちらへと向けさせ続けたかったばっかりに
素直じゃあない方法でばかり、余計なちょっかい出してたもんで。

 「?? どした?」

そんな曾てを思い出し、ついつい言葉を失くしたままになる、背高のっぽの元相棒へ、
曾てのそれだとて意味が判らぬまま振り回されてた身の美人様。
キョトンとして小首をかしげる様子が、何とも愛らしいのが反則じゃあないかと。
今度もまた、ご当人様さえ気づいてないまま、
その天然っぷりにいいように振り回されよう美丈夫様だったりするらしい。





     ~ Fine ~    18.11.30.


 *何か変な〆め方ですいません。
  昨日いきなり高熱が出て、そのノリで書いたせいかもしれません。
  芥川くんが実は口うるさい小姑みたいだというネタは
  いつかどっかで使おうと思ってたんですが、
  こんなところで使えようとは…。
  人生 山折り谷折り。(もーりんさん、まだ熱ひいてません)
  そして相変わらず旧双黒に夢見ている私。
  よっぽどのこと太宰さんの側からモーションかけさせたい人みたいです。(笑)